卒業制作レポート Powers of Ten より引用
当制作では人工地層としての立体作品と映像、音声による空間づくりに取り組んでいる。この作品では人新世としての今現代において、人間の尺度を自然に認識することを促すものを配置、再掲することで人の営みのうちにある時間を考えるためのしつらえにする空間づくりを試みる。
<層理による「過去」の分析>
過去 現在 未来の現代のモデルとしてスカルプチャーを制作した。ここは実存について考えを巡らせるための部屋である。
地層ー積層 は私たちの存在していなかった時間の存在を証明しているかのようだが、それが人の想像のうちにしか存在しないものであるかもしれないという可能性を払拭することは不可能だ。当インスタレーションは、ただの記憶、記録でしか過去は表せず、空想や計算でしか未来は表せないということに目を向けるための作品である。つまり、人間が現在信じる時間をもう一度疑うためにこの部屋は存在しており、時間軸を鳥瞰することができるのは現代人に許された特権であるということを示している。
2018年、”千葉時代ーチバニアン”という地質年代が地球史に誕生することが決まった。これは第四紀更新世前期・中期~12万6000年前を指し、77万年前地球の磁場が反転していた頃を含んでいる。実際逆転期の位相がみられるのが市原の田淵であり、この地磁気逆転の層が含まれている。これはこの層に含まれている岩石が逆向きに磁化していることからわかることだ。地磁気逆転が起こることで、その時代の生命には非常に甚大な影響があったとみられており、一説には寒冷化などの気象変動や、また一説に磁気圏が消えるため、太陽風にさらされる危険があり、それがネアンデルタール人絶滅の原因となったとも言われているーこれは現代の科学がそのようにその当時の様子を分析した一つの例である。
地層は人間が分析可能な歴史の象徴と言える。絵画でいえば、絵画を体験する際、我々は表面に浮き出たものを最終的な図柄として認識し、決して肉眼で絵画の断面を見たりなどはできない。そのように私たち人間は堆積の上に図ー文明を築き上げたのだ。この空間の窓下に見えるアスファルトの上にできた風景は、まさにこの現在の一つの表層を表しているが、これは不変のものではなく過去の一時点、未来の一時点では様相を変えている。長い単位で見ればこの一帯が海であった頃、波が運んできた堆積物であったり、火山の噴火による火山灰であったりなどがつみ重なった上に我々は存在していると人間はみなしている。
果たして本当にそうなのだろうか。私たちが見ている全ては結果であり、事実かどうかの確認はできない。
<時間の証明>
さて現在、もう一つ参照すべき状況がある。2019年、ブロックチェーンの時代が来ている。改ざん不可能な電子証明のことで、今非常に信頼されている情報管理方法。元は電子通貨の世界から来た言葉だが、今現在はあらゆるデータなどに適用され、それは美術の世界も例外ではなく作品ができた時間などのデータが信用されているのが現状である。つまり地層における示準化石(その時代がわかる化石)のようなものがネットの世界に浸透してきたというわけだ。私はそれにどうも危機感を感じざるを得ない。情報を無垢に信用したプラットフォームの構築が失わせる何かにばかり目を向けてしまう。
壁面に投影されている映像は2017年9月3日昼下がりにオーストラリア・アーネムランドの先住民の子どもたちによって撮られた動画であり、あるタイミングで停止する。上部に取り付けられた指向性スピーカーからは映像と呼応する時間の時報が降りかかるように流されている。
右下にタイムスタンプが押されているが、本当の時間を表しているのか、後で編集されて押されたものか判別は非常につきづらい。どの時代か、いつ、どこであるのか、わからない記録としての映像に時間という概念を与えている役目をこなしている。私は2019年現在のアーティストとして、頭部のペインティングではなく、集団の中でゆらりと立ち現れる自己性、まなざしまなざされること、が現われたこの動画こそが今日の自画像であると提言したい。
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